“これはハンス=クリスチャン・アンデルセンの伝記ではなく、そのおとぎ話の世界の映画化”である旨の文章で始まる、テクニカラーの見本のような色彩感溢れる美術と撮影が嬉しい童話ミュージカルの良心作。ケイはいつものおふざけはないかわりに、子煩悩ぶり(彼が晩年をユニセフの国際親善大使として児童福祉に貢献したことは有名)を大いに発揮。子供たちを学校から奪って故郷の町を追放されてしまうほどお話名人の純朴な靴屋を...好演した。作詞・作曲はF・レッサー、地味ながら佳曲が多い。助手の少年ピーターの導きで、自分が追放者とは知らずに彼とコペンハーゲンに向かったハンス(ワルツ調の主題歌“Wonderful Copenhagen”が終わると、新聞売りの少年の声が似た旋律で響き、そして、町々の物売りたちの声がすべて音楽に聞こえるあたり素晴らしい)。早速、露店の靴修理屋を開業するが、王の銅像を汚したかどで留置所へ。ピーターは靴直しを要するバレエ団のプリマの話を聞きつけ、彼を釈放させる。ハンスは演出家である夫のニールス(F・グレンジャー)とただ互いにワガママを言い合っているだけのプリマのドロ(これが映画デビューのジャンメール)を、夫と不仲なのだとばかり思い込んで、彼女を慰めるために一編のおとぎ話を書く。その“人魚姫”をもとに彼らは創作バレエを上演。この21分に及ぶシークェンスは圧巻で、群舞の娘たちが宙に浮く、メリエス映画のような幻想的セットが全体の調子とまるで違う(振付は王子役で踊ってもいるローラン・プティ)。結局、失恋してピーターと共に故郷へ帰るハンスは、皆に大歓迎され、フィナーレは挿入歌をリクエストに応える形でメドレーで歌って大団円となる。一人ドロを想って歌うバラード“Anywhere I Wonder 、Anywhere I along”はしんみりした名曲。