For the times, they’re a-changin’と大合唱になるところは、日本でディランのレコードを聞いてゐるだけではわからなかつた、当時の現地の興奮が如実に伝はつてきました。目の前に天才が現れて、誰も書いたことがない、時代の精神をとらへ、社会を変へうる力を持つた凄い歌を歌つてゐる。アメリカのフォーク・ファンの感激はいかばかりのものであつたことでせう。映画は彼らが歌詞の一語一語を噛みしめて聞いてゐる姿をよく表現してゐます。これが翌年、ピート・シーガーがディランを諭すシーソーの譬へにつながります。
冒頭と最後のSo Long, It’s Been Good to Know Youはウディ・ガスリー本人の録音です。88年にディランは、ガスリーのトリビュート・アルバムに参加し、Pretty Boy Floydの、ガスリーの衣鉢を継ぐ素朴な、いい演奏を残してゐます。興味のある方は探してみてください。 ひるがへつて、ディランはいろいろやつてきたけれども、結局ギター弾き語りが一番よかつたのではないか?と、私は思はないでもありません。